沖縄民謡大全集(フクラレコード)に入っている伊集亀千代(生没不明)による台所用品を役者に見立てた組踊のパロディ「家庭組踊」は面白いのでここにその一部を紹介します。
出様ちゃる者や薬缶ぬ按司
茶盆、ちゅーかー取い逃ちねらん
聞けば箪笥大主隠ちあん廒やい知らし火ぬあたん
明日明き廒明日や戦さ押し寄し廒
憎さ大主切り殺ち退き廒
夢ぬ間ぬ浮世楽しゅらん婢思みば
急じ此の事や早みぶさぬやー
鍋子ぬ子、あんびんぬ比屋
ふー
逃ちあん婢む廒
気に掛か廒居たる茶盆、ちゅーかーや
聞きば勝連に箪笥大主隠ちあん廒やい、今嬨我ね聞ちゅる
明日ぬ明明に戦押し寄し廒
憎さ大主切り殺ち退き廒
(後略)
(「ちゅーかー」は急須、「あんびん」は土瓶)
いかがでしょうか。この後、ひぬかぬ城(カマド城)に攻め込む様子が、家来のナベにより語られます。
これが一般に笑い受けされるには、第二次世界大戦前には古典の組踊がよく知られていた素地があったからです。事実、戦前の中学生もこの真似をして、仲間で大いに楽しんでいたそうです。うちなーぐち(沖縄語)が普通に使われていた時代には、組踊も現在の沖縄県人の大半が「何言ってんだか分からない」状態ではなかったのですね。