沖縄口朗読用読本「昔物語」

琉球新報社からうちなーぐち朗読用読本「んかしむぬがたい(國吉眞正)が先月出版されました。全50話中前半の25話の著者による朗読音声CD付です。見開き2ページで物語本文と語句の説明というレイアウトです。本文は沖縄文字で記述され、漢字には全て沖縄文字のルビが振られています。語句の説明は沖縄語の初学者でも分かりやすい親切なものです。巻末には全50話の共通語(いわゆる標準語)訳があります。

今までに出版されてきた沖縄語書籍は、まず発音表記がまちまち、あるいは誤りだらけで、沖縄語辞書にもない語句の説明もなく、実際にどのように発音されるのか、まったく不明のものばかりでした。かろうじて一冊だけ、「沖縄語の入門」(白水社)がCD付きで、かつ語句説明もしっかりしたものとしてありました。とは言え、「沖縄語の入門」の方は、まとまったストーリーのあるものではなく、沖縄語の紹介としての役割が与えられています。

「昔物語」ではストーリーの記述、登場人物の言葉遣いが、丁寧語、尊敬語、謙譲語、日常語などに書き分けわれているので、シチュエーションによりどのようになるのかが、とてもよく分かります。断片的な沖縄語ではなく、言語の持つ生活実態や文化・時代背景が活き活きとして、沖縄語の持つ豊かな音韻と語句を学習する上で、今のところこれ以上の本はないと言ってもいいでしょう。

かなりの高齢者を除き、今では大多数の沖縄県人は沖縄語が話せないし、理解できません。インターネットにある沖縄語のほとんどはデタラメです。三線の師範と言われる人たちや、伝統芸能の組踊演者も、発音があやふやだったり、歌詞の解釈が誤っていたりしています。言語は文化の根幹ですが、沖縄語はまさに絶滅危機言語になっています。これから沖縄語の保存・継承は容易ではないでしょうが、次世代の沖縄県人への指針として本書が役立つことを願っています。