沖縄語辞典(国立国語研究所)

うちなーぐちの勉強に欠かせないのが沖縄語辞典ですが、現在手軽に買えるのは「沖縄語辞典ー那覇方言を中心に」(内間直仁、野原三義 編著 研究社)です。定価も3千数百円で手頃なのですが、古典芸能で使われる首里言葉ではありません。明治維新の廃藩置県まで、首里は琉球王府の政治・文化の中心で、首里言葉は共通言語として、奄美を除く琉球列島全域で使われていました。その後経済、物流の中心が那覇に移り、那覇方言がよく使われるようになりましたが、両言葉は一部が異なるだけで、非常によく似た言葉です。

首里言葉の特徴として、同輩、目上、目下、性別など非常に細かい使い分けがあり、非常に精緻かつ優雅な言葉です。例えば、組踊のセリフでも登場人物同士の会話を聞いただけで、双方の立場がすぐにわかるようになっています。首里言葉を日常に使っているひとは、もういません。東京周辺で話せ、教えることができるひとは、私の知る限りでは「うちなーぐち神奈川」で学習支援している國吉眞正さんのみです。よく沖縄料理の店の主人で、うちなーぐちができるというひとがいますが、祖父母から聞きかじったとおぼしい怪しげな方言を滅茶苦茶な文法で得意げに「うちなーぐち」と言っています。なにしろ、唄三線の師匠でさえ、正しい首里言葉を話せないのがほとんどなのですから。

さて、辞書に話を戻すと、首里言葉の辞書として信頼できるものは、「沖縄語辞典」(国立国語研究所)のものですが、残念ながら現在は絶版状態で、古本として買おうとすると程度の悪いものでも1万6千円、良いものだと4万円弱と高価になっています。沖縄語学習者の人々が再版を希望していますが、今のところその予定はありません。ただ、この辞典のPDFファイルが国立国語研究所の公開データベースにあります。これをダウンロードすれば電子的には無料で手に入ります。もっとも辞典をスキャナでPDF化したものらしく、あまりきれいではありませんし、語を引くのにも不便です。私はAcrobatで二つに分かれている辞書PDFを一つにまとめ、先頭に1ページ加えて、そこに見出し語のリンクを作りタブレットで利用しています。それをここに提供できれば良いのですが、オリジナルの著作物を勝手に改変したことになるので、公開・ダウンロードできるようにできないのが残念です。