ウチナーグチ辞典と言えない

ネットで「ウチナーグチ」を引くと、真っ先に

「ウチナーグチ辞典」
http://www.koza.ne.jp/koza_index/uchina-guchi/

が出てきます。コザ(沖縄市)が関係しているサイトなのですが、この辞典は誤りが非常に多いです。

まず、最初の一語「アーケージュー」を「赤トンボ」としています。「アーケージュー」はトンボの古語「あきつ」を語源にしたもので、トンボの総称です。「赤」はおそらく「アーケー」から来たのでしょうが、まったくの誤りです。さらに、「タンメー」=「おじいさん」を「おじさん」と間違っています。なお、「おばあさん」に対応する「っんめー」(発音は[ʔNme])もありません。これは士族言葉で、平民言葉なら「うすめー」と「はーめー」です。また、「アンマー」=「母親」(平民言葉)に対する「スー」=「父親」がありません。士族言葉であれば、「アヤー」と「ターリー」です。平民言葉と士族言葉の違いも理解していないようです。この辞典の語はどのような基準でこの辞典の語を選んだのか、理解に苦しみます。兄、姉を「ニーニー」、「ネーネー」と言うのは「うちなーやまとぐち」で、「うちなーぐち」ではありません。

うちなーぐちの表示でも、正しい発音にまったく無頓着です。うちなーぐち特有グロッタルストップ音[ʔ]やの複合子音を仮名で表すのであれば、せめて研究社の「沖縄語辞典」を参照すべきでしょう。たとえば、「クヮッチー」を「クワッチー」と先頭の音を「ク」と「ワ」で発音したら、うちなーぐちではありません。「ヤー」=「家」、「ッヤー」=「君、おまえ」は別の言葉です。なお、この辞典では「家」を「ぃやー」と表記しています。「豚」を「ゥワー」と表記しているのも変です。共通語(いわゆる標準語)より豊かな音韻のあるうちなーぐちが伝わりません。

このサイトの問合せ先にメールで訂正を提案しましたが、まったく返信がありませんでした。沖縄県人からして、おかしなうちなーぐちが堂々とネットに上げられている状況で、それを直そうともしないようでは、うちなーぐちの未来はなさそうです。

ニブダリヤ天の神

「ニブダリヤ天の神」です。ニブダリヤとは「いつも眠っているひと」のことです。どこのしまく婢ばか分からないところは赤字で示しました。また、「はたらちゅんつんさん」、「らちふーさら」と話者が間違っているところも赤字に直しました。田舎では「日」を「ひー」と発音しますが、首里言葉では「懲ー」です。どちらかに統一せず、あいまいになってます。「あーがい」、「ずみ」は間投詞の様ですが、「あーがい」は不明です。「ずみ」は宮古の方言で、「よい」という意味です。女性の話者はうちなーぐちに自信がないのか、心もとない話しぶりです。
※沖縄語教育研究所の國吉眞正さんに校閲していただきました。
=ニブダリヤ天の神=
んかしんかし宮古なーくんかい、ふゆーなむんわかさるうみちゅーたん。くぬ瀞きがー、はたらちゅん廙んさん、らくじんむちなららんがやー。うりびけーいかんげー廒、ゆるいゆ彩ーちょーいびーたん。

若者 はー。いよーあらんぐ婢じんからんがやーやー。

天の神 あーがい。えー、えー。りゅーぐーかみよ、あみたま廒ーぎ廒らさに。なーじまぬっちゅからにげーょーん廙ち、あーがいばまかみからのけやん。うね。

竜宮の神 あー!あんや廒杖。あんちゃぐ婢、近頃ちかぐろあみたま歹く廒ねーたんやー。廒んかみ、うんじゅが嬨ニブダリヤやさ。うね!

若者 やみ!あみりゅうぐうかみぬ、廒んかみんかいぎたるあみたま嬨や廒杖。やさ、杖ーく婢かんげーたん!

くぬ婢し宮古なーくじまや、あみらん。はるたーはたらち、むるむんぬねーらんなとーたん。くまたるっちゅちゃーや、する廒、ばまたきんかい、あまいぬにげーうさぎとーたん。

若者 むらぬっちゅちゃーんねー、あみらするく婢ぬないびーん。あみらしさーらんにんかいじんはらり。

若者 おっほん。りゅうぐうかみよ、ん嬨やる。廒んかみ嬨やる。此間くねーだやか、なー懲んうふあみたまなぎらし。

竜宮の神 は、は、は、は。ニブダリヤぬ揄ーがきとーん廙しぇ、みじらさん。あんしぇ、うり、うり、うり、うり。

村人 うね、あみ嬨ー!本当ふんとーあみあみゃん。
村人 ふゆーなむん廙、うむとーたしが、あみらするく婢ぬなゆん廙しぇー、すれー、ちびらーさん。ずみ

うりからぬ廙しぇー、あみるかーじ、瀞きがじんむちんかいな廒ゃーびたん。
やしがあるく婢

天の神 あー、あー、ぬーやがなまむのー?にんじんぶんぜーぬ、かみぬねーびすん廙しぇー、ゆるさん!りゅーぐーかみよ、うぬ瀞きがかちみれー!

瀞きがぬちかじばまたきま廙ゃーびたん。

若者 ばまかみしーたしけ廒みそーり。んねー宮古なーくじまぬっちゅすくたーるだき嬨やいびーる。

天の神 あーがいぬーん廙が!にんじんぶんぜーし、かみぬねーびすん廙しぇー、あーゆるさん!

竜宮の神 やさ。んだますん廙しぇー、ちゃーしんゆるさらん。

小浜の神 んー、あん嬨や廒杖。やしがよー。廒んかみ、にーぶいびけーんしぇー、ひ婢々{び婢}ぬくちさんからん。廒んかみっさん。また、にんじん惘ーかみ惘ーちげーからん。あしりさるりゅうぐうかみかみらーしくねーん。やしが、たーやかわっさしぇー、かみ々婢、むらぬっちゅちゃーだまちゃる揄ーやさ。あんすかかみんかいないさらー、かんさっとーる疫病やくびょーがみないしぇー、しやさ。

若者 わぁー!

ばまかみや、瀞きが疫病やくびょーがみんかいーたん。

わい

浜千鳥(チジュヤー)

「浜千鳥(チジュヤー)」です。人に助けられた鳥が恩返しをする話としては、「鶴の恩返し」(夕鶴)が有名です。こちらは浜千鳥ですが、人間と約束をして、その約束を破ると元の鳥に戻るという筋書きも同じですね。漢字と仮名の対応に注意しましょう。当て字はできるだけ避け、語源的に明示できるものだけ漢字にしますが、瀞きが婢じのような慣用句は漢字にします。
※沖縄語教育研究所の國吉眞正さんに校閲していただきました。
=浜千鳥=
んかしんかし糸満いちまぬんかい、いっぺーなかゆたたさる夫婦みー婢歹い―びーたん。
【男】 うねー。ちじゅやーやさ。あみんかいかかとーてやさや。あわ廒てーやさや。とーとー、たしきて婢らっさ。ん。
【その妻】 あいえー、がたがたーそーさ。ふちゅくるんかいって、ぬくたみらやー。

夫婦みー婢んだー、あみんかいかかたるちじゅやーたしき廒がする、うんななさきある人柄ひ婢がらやいびーたん。

【その妻】 うね。廒―さーじやさ。杖なぐちゅくたる手拭廒―さーじぇーうみ杖きがまむいん廙。ん婢ちょーるちゅくたんどー。

かじちぬちかじちゃるあるぬく婢、婢じはーまんかいうみ様子よーしじーがじゃん。

【男】 何処まーんかいじゃがやー。くんぐとーるかじちゅーさる懲―に。
【その妻】 あーっ、わーあああ!
【男】 えー、何処まーんかいが?うん、あぬ―さーじや!おー、おー、うゎーん。

【男】 うねー?まさか!えー!えー!たーやがやー?

なーちゃから、洗濯しんたくむんさっ廒、やーなーかかたじち、かまねー、ゆーばぬんしこーらっとーる懲―ちぢちゃん。

【男】 今日ちゅーしんたくむんさっ廒、ほーちかちん、ゆーばんぬしこーいん。婢じらんはじやしが。何処まーたーやがやー?
【男】 とー。今日ちゅうやくまからちょーかわるやる。うね?ちじゅやー!あーはー。!あぬとちぬちゅじゅやー嬨やる杖。
【男】 望ー、おー!揄―やあぬとちたしきたるちじゅやー嬨やる杖!
【千鳥】 うー。あんやいびーん。やいびーしが、かんしっちゅ姿しがたんかいないるく婢、あてーないびらんしが、ちゃーしんあぬ婢ち歹んけーさんとーないびらん。どー廙ん、ーがちじゅやーん廙しぇーたーにんわん廙みそーり。
【男】 望ー、わかたん。揄―くくろありがてく婢なまからくまんかいとーけー。

かんし、ちじゅやー婢ぬらしぬはじまいびたん。杖きがか歹にんわらいぬむ嬨廒。うんな杖きがくらし、けー婢ないぬっちょんーちょーいびーたん。
あるゆるやー歹廒、けー婢ないぬ嬨しぬちゃー婢、さきわするうち、杖きがー杖―あんべーな廒ねーらん。

【友人】 えー、めーから婢―いぶさたしが、えー、あぬ杖なご何処まーたーやが?
【男】 あー、うれーーらん。
【友人】 うね。なー懲んさけみ。あぬ杖なごみいーさる婢じ嬨やる杖。
【男】 んー、あらん。んかし婢じ糸満いちまんはーま歹廒たしきたるちじゅやー嬨やる杖。
【友人】 ぬーやん!
【男】 うね!じゃー戴―なたん!

うね、ん廙んち、んーちゃぐ婢、杖なぐ嬨―半分はんぶのーちじゅやーんかいわとーたん。

【千鳥】 約束やくすくやいびーぐ婢、なーり歹廒くまんかいく婢-ないびらん。りーさびら。
なちかさるくち、ちじゅやーやすらたかっち、やが廒ーらんないびたん。
【男】 果報かふーしどー。婢むなちかさかんげ-廒らち、果報かふーし。

わい