表記法は?

沖縄の文化継承には沖縄語の普及が欠かせませんが、本サイトで取り上げたように、沖縄で一般に使用されているのはウチナーヤマトグチです。これは日本語(共通語)とは独立した沖縄語ではなく、日本語に沖縄語の言い回しを加味した方言です。純粋な沖縄語の話者は高齢化により希少となり、使用されるのは組踊(首里言葉)、民謡(各地の島言葉)のような伝統芸能の中だけに限定され、学校、職場は言うに及ばず、家庭や地域社会でまったく話されていません。一言で沖縄語と言っても、琉球王国の官用語である首里言葉、話者の多かった那覇言葉の他に本島内の各地方、さらに島々で話される言葉には大きな違いがあり、沖縄語を継承するとしたら、どの言葉を継承するのかがあります。誰もが話せる共通語に各地の沖縄語を混ぜたウチナーヤマトグチが一種の沖縄県での共通語として広く話されていることに関係しているのでしょう。

仮に首里言葉か那覇言葉を継承すべき沖縄語として全県的に普及を推進するとして、教材、資料を作成する上で、表記は共通語同様に漢字仮名混じり文にするときに、共通語にはない発音をどう表記するのかの問題があります。例えば、[kwa]のような音であれば、「くゎ」、あるいは本サイトで使用している沖縄文字で「彩」になります。それではグロッタル・ストップはどうなるでしょうか。[ʔin](犬)、[‘in](縁)は「いん」と「ぃいん」、「いん」と「杖ん」、さらに[ʔwa:](豚)、[wa:](私)は「っわー」と「わー」、「敖ー」と「わー」になります。表記法と発音は一種の約束事なので、統一されれば不都合はないようでしょう。たとえば、「くゎ」と書いてあったら、「く」「わ」と分離して発音せず、一音で[kwa]と発音する決まりにしておくわけです。

表記法が確立しない限り、沖縄語のテキストが作れません。今のところは上に取り上げた方法以外の表記法が存在し、それぞれ自己の正当性を訴えています。まず、表記法を統一しない限り沖縄語の継承どころか、保存もできないと思いますが、どうでしょうか。