「沖縄語」は話せなくてよい

沖縄語(沖縄口うちなーぐち島言葉しまく婢ば)について考えてきましたが、現状から再考してみましょう。

沖縄県人でも沖縄語を話せるひとはほとんどいません。沖縄県の職場、学校、家庭内でも一般的に話している言葉はウチナーヤマトグチと呼ばれる共通語(標準語)に沖縄語の語彙を混合したもので、本来の沖縄語ではありません。沖縄語、沖縄口を標榜しているネットのサイトでもウチナーヤマトグチを沖縄語として紹介しているものがほとんどです。出版されている沖縄語テキストは首里方言か那覇方言ですが、あなたがそれで沖縄語を学習して沖縄県人に話しかけてもまず通じません。

沖縄語は島言葉とも呼ばれるように、琉球王国時代の分離統治政策により文字通り島ごと、村ごとに異なり、地域相互にまったく通じないほどの違いがあります。沖縄語を保存しようと「島言葉普及運動」があるようですが、数百もある島言葉をカバーすることはできるはずもありません。それに、70代以上の世代でも正しく話せるひとは希少です。「私は話せる」と称する人たちも自分の生まれ育った地域の言葉がかろうじて話せるに過ぎず、「これが正しい」という論拠は特になく、「こう話していた」という幼少期の記憶に頼っているだけです。以上により、沖縄県を旅行で訪れたり、あるいは定住するとしても共通語で十分です。語彙を憶えて行くうちに、ウチナーヤマトグチはすぐに話せるようになります。しかし、組踊や琉歌に興味があるというのであれば、沖縄語を学習する意味はあるでしょう。組踊に使われているのは、新作を別として伝統的なものであれば鑑賞・理解には首里方言の知識が必要です。琉歌は首里、那覇方言でほとんど間に合いますが、歌われている地域の方言も知る必要があります。

三線さんしんで琉歌を歌いたいと思っているひとへのアドバイスです。三線は楽譜として工工四くんくんしーがありますが、歌う場合の発音が問題です。沖縄語には正書法がないので、歌詞を正しく発音するには師匠からの口伝になります。ところが、この「師匠」たるものが問題で、その琉歌が唄われる地方の言葉に精通してないことがあります。また、前にも書きましたが「梅」=「望み」の「望」(「ん」のグロッタル音)ができない師匠も多くいます。聞いていると「ぅん」とか変に籠らせた「ん」を発声したりしています。師匠の教えは教えとして、正確な発音は古い先人のレコード、たとえばマルフクレコードに収録されているものを参照されるようお勧めします