伝統芸能である組踊を鑑賞する上で、共通語(いわゆる標準語)に近い言葉で書かれている台本と、実際に舞台で唱えられている沖縄語の違いに戸惑います。沖縄語の話者であれば、台本を沖縄語に「読み下す」ことは造作もないことですが、私たちのように共通語に慣れているものにとっては、唱えを理解できません。例えば、能「羽衣」に着想をえた「銘苅子」を見てみます。独立行政法人日本芸術文化振興会のサイトにある組踊
「銘苅子」を見ると、「台本」、「読み」、「現代語訳」があります。「台本」と「現代語訳」は読みやすいのですが、「読み」はカタカナの沖縄語表記で非常に読みづらいものになっています。
冒頭の部分は
ディヨーチャルムヌヤ
ミカルシー
ファルヌイチムドゥイ
ファルヌユッチャイニ
アヌマツィヲゥミリバ
アヌカワワヌムトゥニ
ティントゥヂニフィカリ
サシマワティカラニ
カバシャニヲィダカサ
シジャヌクトゥナラン
これでは言葉としてどこでどう切ればよいのか、まったく分かりません。沖縄文字を使用して、沖縄語の発音を正確に表すと、
出様ちゃる者や銘苅子
原ぬ行ち戻い
原ぬゆっちゃいに
あぬ松ゆ見りば
あぬ川ぬむ婢に
天婢地に光
さしまわ廒からに
かばしゃ匂高さ
しぢゃぬ事ならん
のようになります。私たち共通語話者にもがぜん分かりやすくなりますね。それだけでなく、これから組踊をやってみようという若い人たちにも役にたちそうです。組踊の保存・継承はこのような広く理解されるものにしてゆく努力が必要ですが、現実はただあるがままを舞台に乗せて見せているだけなのは残念です。